第75章 貴方が
ーーー
「・・・ひなた」
「ん・・・?」
名前を呼ばれ、無くしていた意識を取り戻して。
ただ、瞼は閉じたままそれに短く返事をすると、額に柔らかい感触を受けたことを感じ取った。
「起きろ、今日まだ何も口にしてないだろ」
そう、だっけ。
というより、私はどうして眠っていたんだろう。
相変わらず、寝起きは頭の回転率が悪い。
「・・・起きないと、もう一度襲うぞ」
もう一度・・・?
その言葉を聞いて、ゆっくり重い瞼を持ち上げた。
「零・・・?」
何となく、彼の声だと分かってはいたけれど。
姿を確認すれば、何故ここにいるのか不思議にさえ思った。
「まだ寝惚けているのか」
ボーッとする頭のまま彼の顔をジッと見つめれば、ゆっくり零の手が頬に伸びてきて、優しく数回指で撫でられて。
リップ音を立てながら、啄むようなキスを何度か唇に落とされた。
「・・・起きられそうか?」
まだ思考はハッキリしていない。
けれど、彼の問いに応えるように、ゆっくり体を起こし始めた。
「・・・ッ・・・」
今までと違う痛みがある。
軋むような痛みに加え、筋肉痛のような動きにくい痛みがいつの間にか増えていた。
彼の力を借りながら何とか体を起こすと、そのまま壁に寄りかかれるように体を動かしてくれて。
未だハッキリ目覚めない私の顔を覗き込んでは、何故か彼も私の傍に腰掛けた。
「・・・無理をさせたな」
片手を私の頭へと乗せると、優しく撫でられて。
・・・この感覚、少し違うけれど似た様なものを最近感じた気がする。
あれは・・・確か・・・。
「・・・!」
その瞬間、ぼんやりしていた意識はハッキリと戻った。
ついでに、意識を飛ばす前までのことも全て思い出して。
・・・あまり思い出したくないことも含めて。