第9章 仮の姿
風見が車を持って来るまでは遅くても15分。
それまでやつらが戻って来なければ良いのだが。
彼女をよく見ると、スマホを握りしめ、それにイヤホンを繋いで何かを聞いているようだった。
誰かと電話をしているのか?それにしては彼女が喋る様子がない。誰かから指示を受けている・・・?
その時はそう考えていて。
なんとかジンが戻ってくるまでに、風見が近くまで僕の車をつけたと連絡があって。少し遠くで待機を命じ、必要にならないことを願ったがそれはあっさり叶わず。
ポルシェの主がどこからか戻ってくる。
ウォッカと・・・ジン。
彼らならこちらに気付きかねないと、気配を極限まで消した。距離はかなり置いていたこともあり、何事も無く奴らはポルシェへ乗り込んだ。
それを見て彼女もタクシーを拾う。
やはり追う気か。
そう思いながらハンズフリーマイクで風見に連絡をとる。
「僕だ。通りへつけろ、急げ」
必要最低限の言葉。焦るな、と思えば思うほど空回るように焦って。
「お待たせしました、降谷さん」
指定した場所へ僕の車が止まる。彼女の乗ったタクシーはまだギリギリ追える距離で。
「ああ、助かった。悪いがここで・・・」
「分かってます」
早く、という視線。風見は話が早くて助かる。
彼は運転席から降りると、車に乗り込んで走り去る僕を見送った。
頼むからこれ以上・・・
余計なことはしないでくれ
そう彼女へ祈りながらタクシーを追いかけた。
恐らくポルシェに気を取られてはいるだろうが、彼女にこの車はバレている為、常に数台後ろから追いかけた。
走っている最中に気になったのは、そもそもなぜ彼女がポルシェを追いかけているのかという理由で。
組織のことをどこかで嗅ぎ付けたのだろうか。
借りている事務所にはそれに関する資料は置いていなかったはずだが。
考えて思い当たるのは、直近で彼女に接触した可能性があるあの少年だけで。
僕のことを彼が警戒している以上、それを吹き込まれていたら彼女は僕のことを疑っているだろうか。
仕方の無いことなのに、そう思うとどこか笑いと共に寂しさが生まれてきた。
とにかく今は彼女がジンやウォッカに近付いている以上、今この尾行の手を緩めることはできなくて。