第74章 そして※
「お願い・・・離して・・・」
涙が零れそうになりながらも、彼の目を見て訴えて。
一度彼ときちんと話をしたい。
そう、思ったから。
「・・・その言葉、煽っているだけだとお気付きですか?」
「ち、が・・・っんん・・・!!」
下着の上から触れていた秘部を、今度は直接、下着の隙間から指を忍び込ませて触れられた。
見なくても、触らなくても・・・響いてくる音と、彼の指が滑らかに滑ることを感じれば、そこが十分に濡れていることは嫌でも分かった。
「そういえば貴女は、頑固な方でしたね・・・」
・・・何度も言われた事がある。
でも、それは私に言っている言葉では無いのだろう。
彼が私を違う人だと思いながら触れているのだと思うと・・・虚しくて、我慢していた涙が零れてしまって。
「・・・ッ」
「!」
私の涙が零れた時、ほんの一瞬、彼も気を抜いて手の力を緩めた瞬間があった。
それを見逃さず、その一瞬の隙に掴まれていた手を振りほどくと、彼の首に腕を回して抱きつき、そのまま口付けをした。
もう、その誰かを重ねないでほしい。
私を、私として見て欲しい。
バーボンではなく、降谷零に・・・戻ってほしい。
そう思ってのキスで。
深くは無い、触れるだけのキス。
けれど、時間としては長いものだった。
・・・その間、彼はピクリとも動かなかった。
「・・・っは、ぁ・・・」
唇を離し一度大きく肺に空気を送り込むと、彼の目に視線を移して。
彼は少し唖然としたように目を丸くさせ、私の目を見つめ返していた。
「れ・・・い・・・?」
その目は、バーボンというよりはそう見えた。
それを確かめるように名前を呼ぶと、彼はゆっくりと重たそうに唇を動かした。
「・・・ひなた?」
彼の口から私の名前が出た瞬間、栓が抜けたように涙が溢れ出てきた。
泣くつもりなんて無いのに、泣きたくも無かったのに。
最近はどうにも、泣きたく無い時ばかり涙が出てきてしまう。