第74章 そして※
「バー・・・、ボン・・・?」
確かめるように、呟くように、か細く、恐らく目の前にいるのであろう人物の名前を口にして。
「改まって、どうしたんですか」
そう答えた彼に、確信した。
やはり目の前にいる彼は・・・バーボンだ。
でも何故、降谷零ではないのか。
その疑問を確かめるように、恐る恐る彼の目に視線を動かしていった時、その理由がなんとなくだが分かった気がして。
どこか・・・虚ろにも見える目が、彼のものではない。
彼自身が、自分自身を制御できていないように見えた。
「離して・・・ちょっと落ち着いて・・・っ」
そう言いながら掴まれている腕を引っ張ってみせるが、やはり僅かでも動く気配はない。
加えて、この体だ。
抵抗や逃げが、彼に通用するとは思えなくて。
「落ち着くのは貴女の方ですよ」
言いながら彼の顔が、ゆっくり首筋に近付いてきて。
彼の吐息がそこに掛かると、無意識に体はピクリと跳ねた。
「やめて・・・っ」
怖い。
零なのに、零ではない彼が怖い。
「何故です?」
「・・・っ、やぁ・・・」
喋る際に漏れる吐息が、今度は耳を燻って。
思わず、小さく甘い声が出てしまった。
「待って・・・とりあえず離して・・・!」
「嫌ですよ、せっかく捕まえたのですから」
一体、どうしたのだろう。
もしかして、また誰かの変装・・・なのか。
寧ろ、そうであってほしいとすら思った。
「ひゃ・・・っ!」
一瞬の気の緩みや、隙を的確に狙ってくる。
作ってしまったその瞬間に、彼の舌が耳を這った。
そんな時に突然与えられた刺激に、体が反応しない訳がなくて。
「良い声です」
「や、喋っ・・・ちゃ、あぁ・・・っ!」
耳朶を口に含まれたり、下から上へと舐め上げられたり、鼓膜へと直接リップ音が響くくらいに濃厚に快楽を与えられた。
いつの間にか無意識に声を我慢しようと下唇を噛み、瞼も再び固く閉ざしていた。