第74章 そして※
「・・・・・・」
特にすることなんて無い。
事務所でできる仕事を事前に聞いておいたが、二日間は休めと強く言われて事務所に入ることすら禁じられた。
買い物は風見さんに頼んでいるから、必要な物があれば頼めとも言われていて。
それくらいできると最初は断ったが、それでは風見さんが叱られるだけだと聞かされれば、受け入れざるを得なくて。
どっちみち、暇な事には変わりない。
けど、ここに居れば零を感じられるから。
「・・・っ・・・」
大きくため息を吐きながら彼のベッドに背中から倒れ込むと、まだ万全では無い体が僅かに悲鳴を上げた。
思っていた以上に平気だと感じているが、思っているより平気では無い。
矛盾するような感覚の中、両手でそれぞれの腕をゆっくり撫でて。
「・・・零」
まだ外は、これから陽が沈もうかというところなのに、どうにも強い眠気が襲ってきて。
病院では落ち着かなくて眠れない日もあったから。
そう適当に要らない言い訳を自分にすると、ゆっくりと重たい瞼を落としていった。
ーーー
「・・・・・・ん」
目を覚ますと、もう部屋は暗闇の中で。
どうやらすっかり寝過ぎてしまったようだ。
軋む体を徐々に起こしながら辺りを見回すが、そこは入ってきた時と何も状況は変わっていなくて。
零が帰ってくるのは、恐らくまだ先の話なのに。
どこか期待している自分がいて。
お腹は空いていないが、少しは満たしておかないと別の原因で倒れてしまう。
そうなっては本当に怒られる上に心配を掛けてしまうから。
そう思って暗い部屋を壁伝いに、色んな意味で重い足取りで台所へと向かおうとした時、期待していた音が突然部屋に響いてきて。
それは、掛けていた玄関の鍵が開けられる音。
寝ぼけていた頭も、重かった足取りも、晴れなかった気持ちも、嘘のように全てが回復し、希望の眼差しで玄関を見つめながら、そこへ小走りで駆け寄った。