第73章 未休み
「・・・ひなたがこんな時に悪いんだが、また暫く会えなくなりそうだ」
そんな事、か。
そう思えるくらい、私にとっては安堵できる話だった。
それ以上に恐れている話は、もっと沢山あるから。
「分かった。私は大丈夫」
取り繕った訳では無い笑顔を向ければ、彼も少しは安心してくれたようで。
少しぎこちなくはあったが、零も笑顔で返してくれた。
「代わりっていう訳じゃないんだけど・・・一つだけ、我儘言っても良いかな・・・?」
「どうした?」
わざわざ聞く程のことでも無いのかもしれないが、一応・・・確認しておきたかったから。
「退院したら、零の家で待ってても良い・・・?」
強請るように尋ねれば、彼は僅かに目を丸くして。
その後すぐに、柔らかい表情を見せた。
「駄目なんて言う訳ないだろ。・・・待っててくれ」
「うん、ありがとう」
いつになるかは分からない。
けど、だからこそ、彼の家で待っておきたかった。
この上無く、零を感じられる、あの場所で。
ーーー
「まだ、無理はなさらないように。何かあればすぐに来てください」
「はい、ありがとうございました」
あれから一週間。
予定通り、私は退院をさせてもらった。
本当ならば、あと半月程はいてほしいと言われたが、病院側には本当に無理を言った。
実際、本調子に戻ったかと言われればそんな事は無く、まだ動きとしてはぎこちない。
それでも私は、ここに閉じ込められていることの方が苦痛だったから。
タクシーで零の家近くまで帰ると、持っていた合鍵で部屋へと入った。
相変わらず整った生活感の感じられない部屋は、入った瞬間に、暫く家主を出迎えていないことを教えてくれた。
「お邪魔します・・・」
ただいま、と言うのは少し違う気がして。
無意味に辺りを見回しながら、ギターの置いてある奥の部屋へと足を進めた。