第73章 未休み
「そろそろ、よろしいですか」
存在を半ば忘れてしまっていたくらい沈黙を守っていた沖矢さんが、突然にそれを破って。
「ここからは大人の時間だ。コナンくんには外で待っていてもらおうか」
それは、少し困る。
「コナンくんがいなければ、話はしません」
病院とはいえ、個室だ。
変なことはしてこないだろうが、何をしてくるかは分からないから。
・・・零だって、いつ来るか分からないのに。
「それは、困りましたね」
この人も相変わらず、言葉と表情があっていない。
楽しそうにも見える、その声色と表情に若干の苛立ちを感じながら、警戒心を剥き出しにした。
「大丈夫ですよ、食べたりなんてしませんから。・・・それとも、そういうのがお望みでしたか?」
徐ろに彼の顔が耳に近付いたと思うと、コナンくんには聞こえないように耳元で囁かれた。
デリカシーが無いのも相変わらずのようで。
「五分で構いません」
顔を離すと、彼は手を開いて平を見せた。
私は、時間に関わらず二人きりになるのが嫌なのだけれど。
・・・あまり、沖矢さんとの会話をコナンくんに聞かれたくないのも、また事実だから。
「・・・分かりました。きっちり五分経ったら、コナンくんは部屋に入ってきて」
「う、うん」
コナンくんにそう頼むと、彼は戸惑いながらも返事をして、部屋を後にした。
「・・・で、何ですか?」
「わざわざお見舞いに来たのに、随分と冷たいんですね」
・・・それは、彼の言う通りかもしれない。
でも何故か彼には、危機感というのか、警戒心というのか、無意識にそういうものが働いてしまうから。
「沖矢さんがそういう風に振舞っているんじゃないですか」
「おや、そんなつもりは無かったんですが、ね」
もう考えるだけ無駄だ。
この人はこういう人なんだから。
「忘れ物を、渡しておこうと思いまして」
そう言って彼が上着のポケットから取り出したのは、見覚えのあるスマホだった。