第73章 未休み
「さっき検査が終わったばかりだから」
それは半分本当で、半分嘘で。
何故、赤井さんが突然部屋を出て行ったのか、その理由が今、分かった。
恐らく、赤井さんと零はここでは対面していないのだろうから。
赤井さんの事は伏せておいた方が良いと思った。
「・・・そうか」
少し安心したように笑みを見せてくれれば、ベッドの横にある椅子に腰掛けて。
「体は動くか?」
「・・・今はまだ」
痛くて、僅かに首を動かすのが精一杯だった。
明日はまた違う変化が体にあると思うと、少しだけ恐怖ではあって。
「零は?怪我、大丈夫?」
「ああ、かすり傷だよ」
そうは見えないけれど。
よく見れば、服はあの時のまま汚れていて、僅かに血が滲んでいる。
もしかすると、顔にある絆創膏も彼自身で貼ったものかもしれない。
私の意識があった時の保険・・・といったところだろうか。
手当てをしていないと、私が要らぬ心配をすると思ったのだろう。
・・・そういえば、赤井さんが去り際に、また殴られそうだと言っていたけど。
零と赤井さん、互いの怪我の一部は二人によるものだと思うと、子どもの喧嘩のようで少しため息が出た。
「・・・ーーーだな」
「え・・・?」
零がポツリと何かを言ったけれど、ハッキリとは聞き取れなくて。
何と言ったのか短く尋ねるが、彼はゆっくり首を横に振りながら立ち上がった。
「なんでもないさ。今はゆっくり休んだ方が良い。僕も後始末をしてくる」
「行っちゃうの・・・?」
今、来たばかりなのに。
「明日・・・ではないな、もう今日か。また来る」
そう言うと、彼の顔が徐ろに近付いてきて。
優しく触れるだけのキスをされた。
「・・・零」
「そんな目をするな、我慢できなくなる」
困ったように笑う彼の顔は、無理をしているようにも見えた。
それがどこか胸を苦しめ、余計に彼の言うそんな目で見てしまった。
「おやすみ」
最後にそう一言残し再び短いキスをされると、振り返ることなく病室を後にした。