第73章 未休み
「とにかく君は自分の心配をしろ。一歩間違えたら死んでいたぞ」
それは、そうかもしれない。
これくらいの怪我で済んだのは奇跡かもしれない。
けれど、そうは思わない部分もあって。
「・・・零がいたから、大丈夫ですよ」
彼が居るから、死ねなかった。
彼が居たから、死ななかった。
どちらも言えたことだが、あの場に零が居たことは私にとって大きかった。
「見せつけてくれるな」
そう言いながら赤井さんは、上体を起こしているベッドに横たわる私の傍に手を着くと、静かに体を近付けた。
「・・・っ」
なんだろう、この感じ。
目の前にいるのは赤井さんなのに・・・そうじゃない感じがする。
どこか、懐かしいような・・・。
「・・・!」
突然、何かに気付いたように、赤井さんが出入口の方へと視線を向けて。
何があったのかと同じように視線を向けるが、足音や物音を含め、私には何も変わったことは感じられなかった。
「な、何ですか・・・?」
その行動の理由を尋ねるが、彼はただ近付けた体を離し、そのまま黙って私に背を向けた。
「これ以上はまた殴られそうなんでね。失礼させてもらう」
「ちょ、赤井さん・・・っ」
意味の分からない言葉を残し、彼は静かに病室を出ていった。
突然来て、突然居なくなって。
本当に何をしに来たんだろう。
この上無く、不思議で分からない人だと思っていると、微かに病室の扉が開く音がした。
カーテンで仕切られていて姿は見えないが、段々とシルエットが近づいてくるのだけは確認できて。
静かにそれを目で追っていると、その人物はゆっくりとカーテンから姿を覗かせ、正体を露わにした。
それは、暫くは会えないと思っていた人で。
「・・・零!」
「起きてたのか」
私に尻尾があれば、はち切れんばかりに振っていただろう。
彼の頬に絆創膏が貼ってある事に気付けば、それは尚更で。
手当ては理由をつけて逃れると思っていたから。
零の顔を見ただけで幾分も体が良くなった気がする私は、相変わらず単純な人間だと思う。