第73章 未休み
「これ以上、あまり要らぬ心配を掛けるなよ。俺にも、彼にも」
「・・・赤井さんにはともかく、零には善処します」
答える時に赤井さんから目を離してしまったことから、これは嘘だということが明白だった。
「キールは・・・水無怜奈は無事だったんですか」
「君は本当に人の心配ばかりだな」
そんなの、誰だってそうだろう。
心の中だけでそう言い返しながら視線を赤井さんに戻すと、彼は真っ直ぐに私を見つめていて。
自分の意志をそのまま伝え応えるように、私もそれを見つめ返した。
「ジョディ達が倉庫に向かった時には、もう彼女の姿は無かった。一人で逃げたか、ベルモットが連れ帰ったんだろう」
確かに、ベルモットは彼女とバーボンを殺すことは止めていた。
偽装したメールで疑いが晴れたと判断したベルモットが連れ帰っていても、おかしくはないか。
「・・・キュラソーは?」
その名前を口にした瞬間、頬に触れていた彼の指がほんの僅かだが反応した気がした。
今、聞かれるのは都合が悪かったのだろうか。
そう考えていた瞬間、彼の手と視線がゆっくりと私から離されて。
「さあ、な」
そして、短くそう答えた。
元々、彼女を追ってあの場に行ったのに、その動向をFBIが・・・ましてや赤井さんが知らないなんてあるはずが無い。
隠すのには理由があるんだろうと思い、今は深く追求しない事にした。
けれど彼の仕草や態度から、彼女が良い状態で無い事だけは察しがついて。
・・・その時はまさか、あんな事になっているなんて思いもしなかったが。
「コナンくんも無事なんですよね?」
あの後、姿を見ることはできなかったけれど。
「坊やは問題無い。寧ろ君の心配をしていたぞ」
彼にも、いつも心配ばかり掛けているな、と思い起こせば小さく笑いが込み上げた。
これでは本当にどっちが子どもか分からない。
「なら、良かったです」
気になっていたみんなの状況は何となくだが把握できた。
それだけで入り切っていた力は、どこか要らぬ部分だけ抜けた気がして。