第73章 未休み
「君の方が余程、大怪我に見えるがな」
「あ、赤井さん・・・」
安心した、というのが一番だった。
もし零に聞かれていたら、彼の逆鱗に触れていたかもしれない。
口にしなければ良かったのかもしれないが、半ば無意識だったそれを自分の意思でコントロールはできなかった。
・・・その方が、余程タチが悪いのかもしれないが。
「大丈夫なんですか?」
「俺はな」
俺は・・・か。
曖昧にした質問だからか、その他が何を意味しているのかは分からないが彼の雰囲気から察するに、今は教えてくれないのだろう。
「何しにここへ?」
「君はいつも質問ばかりだな」
そうだろうか。
・・・そうかもしれない。
彼には聞いても教えてくれないことが殆どだが、聞きたいことは山ほどあるから。
「きちんと答えてくれた事は、数える程しかありませんけどね」
「君が答えにくい質問ばかりするからだ」
そう言いながら赤井さんはベッドの左側に腰掛け、私の方へ視線を向けた。
「・・・っ」
彼が伸ばしてきた左手の指が頬を滑って。
親指で、そっと頬を撫でられた。
「・・・何のつもりですか」
「やはり無防備な君は、可愛いと思ってね」
・・・こんなのがFBIで良いのだろうか。
実際、FBIなのだから恐ろしい。
「用がないなら、出て行ってくれませんか」
その手を払い除けたかったが、言うことをきかない今の体では、それすらかなわない。
キツく彼を睨みつけるが、相変わらず笑みで返されて。
「君の様子を見に来るという用事だけでは駄目か」
「駄目です」
私から関わろうとすれば、必要以上に関わろうとさせないのに、彼からは土足で私の中へと入ってくる。
悔しい程に、ペースはあちらのものだった。
「俺の名前を口にする程心配していた割には、冷たいな」
「・・・それは」
別にそれが赤井さんだったからでは無い。
そこにいたのが別の誰かであっても、同じように心配した。
・・・口にしていたかどうかは、別として。