第72章 悪夢を
現状からして、どうやら意識を失ってから今目覚めるまで、そこまでの時間はかかっていないようだ。
転がってしまった観覧車による被害は多少あった様だが、それでも最小限に抑えられているようにも見えた。
それは偶然だろうか。
・・・それとも。
「ひなた!」
僅かに動かせた頭を、声が聞こえてきた上へ向けると、非常口から顔を覗かせる零が見えて。
・・・そうか、ここには零に連れてきてもらったんだ。
今更そんな事を思い出しながら、目の前に着地する彼を目で追った。
「大丈夫か」
・・・また、だ。
またそんな顔をさせてしまった。
「・・・ごめん、なさい」
「どうして謝る」
私に駆け寄り肩を掴むと、そう返された。
何も考えず、ただ私が頭を突っ込んでしまったから。
何もできないくせに、危険に自ら飛び込んでしまうから。
もう少し、大人しくできれば良いのだけど。
それは・・・何故かできなくて。
「話は帰ってから、たっぷり聞かせてもらう。いいな?」
きっと内心では怒ってるはずなのに。
それを表には出さず、優しい声と表情で私に言い聞かせるように言った。
小さく首を縦に動かすと、納得したように一度笑みを見せ、ここへ来た時と同じように私を抱き抱えて、小さな車内を後にした。
外の空気が鼻を抜けた時、火薬や煙の匂いが同時に入ってきて。
結局、キュラソーはどうなったんだろう。
零はもう本当に疑われていないんだろうか。
・・・そして、私は・・・。
「その前に病院だ。救急車が迎えに来ているからそれに乗るんだ」
「・・・零は?」
零だって、傷だらけなのに。
やっと会えたのに、またどこかへ行ってしまうの?
「・・・僕も、残りの仕事を終えたら行くよ」
その表情にある切なさが意味することを、今は知ることができなかった。
できたのは、それから半日程経ってからのことで。