第72章 悪夢を
「ひなた!!」
コナンくんの手を掴んでいた手とは逆の手を誰かに捕まれ、反動で一瞬顔を歪めた。
その声には聞き覚えがあり過ぎた。
「れ、い・・・っ」
段々と失われていく握力と意識の中、見上げた先に朧気に見えたのは彼の姿で。
やっぱり、無事だった。
それが確認できただけで安心できた。
「離すなよ・・・ッ!」
そう言うや否や、彼は手だけで連なる私達を一人で引き上げて。
抜けてしまった力が入ることはもう無く、引き上げられたまま柵に持たれかかると、コナンくんが立ち上がる姿を見た。
大きな怪我は無さそう、彼も無事で良かった。
それらを確認すれば、また一つ意識が遠のいて。
「如月さん、大丈夫!?」
「コナンくん、今はあっちだ!」
零はコナンくんにそう声を掛けると、私を抱き抱えて素早く走り出した。
恐らくそれは転がる観覧車に向かっていて。
その間にも何か会話をしているのが聞こえたような気がする。
けれど、それに意識が集中できる程、気力も体力も残っていなくて。
また迷惑と面倒を掛けてしまった・・・なんて、目を瞑りながらいつもの罪悪感を感じていると、突然聞こえてくる音が違うもののように感じた。
「ここで待ってろ。必ず迎えに来る」
そう聞こえたと思ったら、唇に柔らかい感触を受けた。
零の声に間違いはなかったけれど、さっきの言葉と感触は何だったのだろう。
遠のく意識は引き止める事ができず、ゆっくりと、私の中から消えていった。
ーーー
「・・・・・・っ」
次に目を覚ました時、視界に真っ先に入ったのは、脱輪して転がった先で傾いている、二つある内の一つの観覧車だった。
状況が理解できないまま立ち上がろうとしたが、全身が悲鳴を上げて動かせない。
唯一動かせるとも言えた眼球をゆっくり上下左右に動かし、辺りを見回して今いる場所から確認すると、ここが観覧車の車内であることだけは把握できた。