第9章 仮の姿
彼女を落ち着かせて、眠ったのを確認し風見に電話をかける。
「風見か。例のアレだが・・・ああ、そうだ。用意しておいてくれ」
それは以前に準備しておいたが使わない予定だったもの。組織のものとは違う誰かが、彼女の周りをうろついている以上、これを使うことは仕方のないことだと言い聞かせた。
深くため息をつき、ベッドによりかかる。自分のいらない感情がなければもう少し楽に事を進められただろうに。
そう思いながら、眠る彼女の寝顔を覗き込む。
透き通るような白い肌に、泣き過ぎて少し赤みを帯びている目元が目立って。
長いまつ毛も閉じていると一段と長く感じる。
顔にかかっている柔らかい髪の毛に気付き、それをそっと避けた。
「・・・すみません」
謝る理由は沢山有りすぎて言えない。
それでも眠る彼女に一言そう告げて。
彼女の額の髪を手の平で上げ、そこへそっと口付けた。
少しずつ自分の中で動き始めているこの感情に、どこまで正直になって良いのか分からない。
今は大切な人を作ることが怖い。
また失ってしまうのが怖い。
それでも彼女は守りたいと思ってしまう。
この貪欲な心はどうするべきなのか。
答えは当分見つかりそうもなかった。
次の日から探偵業は暫く休むことを考えた。それは単純に公安や組織が忙しくなり始めたからで。
彼女にそのことを伝えると少し悲しそうにしていた。そんな中、突然思いもよらないことを言い出して。
「ペット探しくらいなら・・・私が受けても良いですか・・・?」
どうしてそこまでするのか。その理由は分からなくて。
「無理しなくて良いんですよ」
「無理なんてしてません!」
ああ、そうか。強がっているのか。
それは紛れもない、昨日の自分のせいで。
護衛を辞めた以上、なるべく1人にはしたくなかったが、GPSの追跡アプリもまだスマホにダウンロードしたままだ。
大丈夫だろうと思い、ペット探しについては了承した。
この判断で痛い目をみることになるとは思いもよらず。