第9章 仮の姿
その時、彼女の服に何かがついているのを見つけた。
これは・・・盗聴器?
「・・・ちょっとだけ動かないでください」
そう言って彼女の傍に手をついて。ゆっくりと襟に手を伸ばす。反射的にか、目を瞑った彼女によからぬ思いが生まれたが、そこはきちんと理性が働いて。
襟についていたそれを取って、立ち上がる。
「・・・ゴミがついていたようで」
ゆっくりと目を開けた彼女に、自分の首元を指さす。
それにつられるように彼女も先程まで盗聴器がついていた襟を触った。
こんなものを取り付けることができるのは、1人しか思い当たらない。
「そういえば今朝、コナンくんと何か話をしていらしたみたいですけど、何話してたんですか?」
「け、今朝話した博士という人に会う話ですよ」
明らかに動揺する彼女に、彼との間で何かあったことへの確信を強めた。
「次は僕も話に混ぜてくださいね」
それは彼女にも、そして今もどこかで盗聴しているであろう彼にも向けて。外した盗聴器を持った手を口元に近付けて話し、それを潰した。
相変わらず趣味が悪いな、と思いながらも人の事は言えない立場であることにため息が出て。
その後、彼女をシャワーへ誘導し他に盗聴器等の類が仕掛けられていないか調べる。
どうやらあれひとつだけのようだ。
そして気になっていたあのメモ。捨てている可能性もあったが、彼女のことだから・・・と、カバンを漁る。予想通り底の方からそれは見つかった。
彼の連絡先と共に僕を調べているという言葉が書かれていた。なるほど、面白い子だとは思っていたが、どんどんと僕の中で恐ろしい子になっていく。
メモを元あった場所へ戻し、急いで食事の準備を始めた。
シャワーを浴び終わった彼女と食事を済ませ、タイミングを見計らって本田冬真についての報告結果を伝えた。
勿論、殆どが偽りの内容だった。
きっと彼女が真実を知る日はないのだろう。
それは僕の願いでもあった。
僕の話を聞いて声を上げ泣く彼女に、何もしてやれなくて。自分の無力さを痛いほど感じた。