第72章 悪夢を
「零が止めてくれるから大丈夫」
爆弾から目を離さず、そして零の顔は見ないまま、そう告げた。
「勝手な事を言ってくれるな」
半分笑うように零が言えば、さっきまで感じていたぎこちなさが、少しは和らいだように思えた。
「間に合いそう・・・?」
止めることはできるだろうが、許されていないのは時間だけで。
不安を滲ませながら問うと、彼はゆっくり口角を上げて答えた。
「焦りこそ最大のトラップだ。・・・これも、友人からの受け売りだがな」
友人からの知識、言葉を、今も大切に心と体に刻んでいる零が、単純に凄いと思えた。
そして、その友人がとても羨ましく思えて。
彼にそれだけの技術を与えて、心には何かを残していて。
この世にはいないからこそ、更に重く感じられる。
傍にいるからこそできることもあるが、いてもできないことはある。
・・・私には一体、何ができているだろう。
悔しさや虚しさの様な感情で握られた拳を見つめていた時、それは突然に起こった。
「・・・!!」
「何・・・ッ!?」
全ての明かりが無くなり、辺りは暗闇に包まれて視界を奪われた。
「零・・・っ」
あまりに突然の事で一気に不安が押し寄せ、彼の方へと無意識に擦り寄った。
零はそれを黙って受け入れて私の肩に腕を回し、零の方へと体を引き寄せられた。
「こう暗くては配線の見分けがつかない・・・、もう少しで解除できるというのに・・・っ」
見えるのは怪しく光る電光板だけ。
それ以外は一切が見えなくなった。
そこには、絶望しか感じられなくて。
「零・・・どうするの・・・」
「・・・っく・・・」
為す術もない、というのはまさに今のことだ。
何か策はないのか、必死に回らない頭を回転させている最中、次の動きが始まって。
「・・・っきゃ・・・!?」
大きな地震のような揺れを感じると同時に、鉄が引き裂かれるような音と、激しく回るプロペラの回転音が耳と体に響き渡った。