第72章 悪夢を
透さんが工具を広げ、使う道具を取り出していく最中、突然何かを思い出したようにコナンくんが走り出して。
「コナンくん!?」
どこに行くのかと、制止させるように名前を呼ぶが、彼がそれに応じることは当然のように無くて。
「ノックリストを守らないと!」
こちらを振り返りながら彼はそう叫ぶと、どこかへと姿を消してしまった。
「ったく、どいつもこいつも・・・」
「私、追い掛けてきます・・・っ」
透さんがそう呟く中、彼を一人にさせてはいけない気がして、そう言い残すと慌ててその後を追って走り出した。
「・・・!」
が、それは透さんが私の手を掴んだ事によって阻まれてしまって。
驚いて振り返るとそこには、真剣な表情で真っ直ぐに私だけを見つめる彼の姿があった。
「彼なら大丈夫だ。ひなたは、ここにいろ」
低い声で、言い聞かせるようにも命令のようにも聞こえる声色で言われると、自然と首は縦に動いていた。
口調も、雰囲気も、今は降谷零だ。
そう気付いた瞬間、彼の手はスッと離れて。
何事も無かったかのように作業に戻る彼の横に静かに腰を下ろすと、ただただ黙って様子を見つめた。
「・・・っ」
「だ・・・大丈夫・・・?」
落ち着いているようにも見えるが、どこか焦りを感じさせる動きに、声を掛けても良いのか不安になった。
けれど、このまま黙っているのも何だか苦しくて。
一度彼が爆弾から手を離した時、恐る恐るそう尋ねた。
「・・・コイツが光ったらお終いだ」
そう言って彼は爆弾のランプを指差して。
零の言う通り、それが光ってしまったら・・・すぐ側にいる私達は当然、無事では無いだろう。
「これが、怖くないのか」
「え?」
再び作業に戻った彼は、突然そう聞いてきて。
言われて見れば、爆弾に対する恐怖は他のものに対して薄い気がする。
現実味が無いから、と言えばそれまでなのだが、きっとそれだけではないはずで。