第71章 純黒の
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暫く車を走らせた後、最終的に彼が車を停めたのは目立たない裏通りで。
いつの間にか日は落ちかけて、辺りはオレンジ色に染まっていた。
「そこで待っていろ」
そう一言残し、赤井さんは車を降りてしまって。
それは彼の準備が終わるまでのことだろうかと思い、確かめることも含めて、言われたばかりの言いつけを守らず後に続くように車を降りた。
「待っていろと言ったはずだが」
「置いていくつもりですか」
単刀直入に問う中、彼はどこからか取り出してきたライフルバッグを広げ、目の前でその中身を組み立て始めた。
初めて見るその作業に、少し興味の眼差しを向けて。
「君まで捕まると、本当に安室くんが危ないぞ」
「そんな事にならないように、赤井さんを頼ったんですが」
ここでジッとしていれば良いだけ。
でもそんな事していたくない。
この目できちんと、彼の状況を知りたい。
危険だということは重々承知だが、その度を越さないように見張ってくれる人物は幸い目の前にいる。
「何があっても声を出さないと誓えるか」
「・・・分かりました」
それは例え、零が最悪な状況を迎えても・・・という意味だろう。
覚悟ができていると言えば嘘になるが、彼だってFBIの仕事を兼ねている。
私にそれを邪魔されては溜まったものではないだろうから。
「・・・・・・?」
私の返答を聞いた彼は、何故か作業する手を突然止め、ゆっくりこちらに近付いてきて。
詰め寄ってくる距離にどこか威圧感を感じ、後ずさるように車へ背を付けて、見上げるように彼を見た。
「・・・ッ・・・!」
何も言わないまま、赤井さんの左手が頬を滑って。
そのまま後頭部まで手が回されると、グッと彼に引き寄せられた。
何をされるのか、瞬時に判断はできた。
ただ、その判断を下す中・・・頭の片隅で過ぎったのは、ついさっきも考えたとある人物の事だった。