第71章 純黒の
「安室くんを助けに行く前に、君にいくつか言いたい事がある」
「・・・?」
溢れ出る涙を濡れた手で拭いながら視線を向け、それは何かと言葉無しで尋ねた。
「何があっても勝手な行動は取るな。安室くんの命に関わるぞ」
・・・そんなの、言われなくたって分かってる。
そう心の中で言い返したが、そんな自分を叱責して今一度肝に銘じた。
自分では計り知れない程に、今は冷静さを失っている。
そこで更に冷静さを欠くような出来事が起きれば・・・どうなるか自分でも分からないから。
「それと」
更に言葉を続けようとする彼の横顔に、一度足元に向いていた視線を元に戻すと、彼は煙草の煙を吐き出しては吸殻を吸殻入れに捨て、横目で私を見ながら口を開いた。
「君は誰かに助けを求める事を間違いだと思っていないか?」
「・・・え?」
間違い・・・?
そんなこと、あるはず・・・。
「・・・・・・」
そこまで考えて、ハッキリと無い、とは言い切れなかった。
あの時コナンくんからも、頼ってくれと言われたのに。
いつからか私は、一人で何も出来ないことを悔やんでは、それに助けを求める事へどこか抵抗を感じていたのかもしれない。
いつも誰かの助けで動けているのに。
「頼る事は、信頼を形にするものだ。悪い事では無い」
そう言って彼は片手でハンドルを握り、もう片方の手を私の顔へと伸ばして、少し乱雑に指で涙を拭った。
「・・・ッ・・・」
急なその動作に、何をするのかと大きな声が出そうになったが、慌てて身を引きながら手の甲で口を押さえた事でそれは防がれた。
まるで私の事を深く知っているような口振りに、若干の違和感を感じつつも、彼は更に違和感を感じる言葉を付け足した。
「頑固な所も可愛さではあるが、な」
その言葉を聞いて、どこか懐かしさのような物を感じた。
・・・そして、彼の指が頬に触れた瞬間、以前感じた事のある感覚を思い出してしまって。
確かあれは・・・沖矢さんと居る時。
彼が頬に触れた瞬間、赤井秀一を・・・思い出したんだ。