第9章 仮の姿
「そんな・・・!むしろ嬉しいです・・・っ!」
「それなら良かったです」
彼女の優しさを利用したといっても過言ではない。
醜いこの感情はどうすれば消えるのだろうか。そんな気持ちの中、残りの開店準備を終えて一息ついていると。
「ごめんなさい、開店前だけど入ってもいい?」
コナンくんだった。彼がここに来る時は単純にご飯を食べる時か、僕に話がある時か、厄介事を持ってくる時。
「構わないよ、今日はどうしたのかな?」
「蘭姉ちゃんは空手の合宿、小五郎のおじさんは調査でいなくて」
なるほど、今日は普通にご飯ということか。そう思いながらモーニングの準備を始めた。
その最中、工藤邸の隣に住んでいる阿笠博士の話になって。コナンくんの持っている探偵バッジに異様な興味を示す彼女が気になった。
発明品に興味を持つ女性はいなくもないだろうが、博士に会いたいということは、発明に興味があるということだろうか、と。
コナンくんがモーニングを食べ終え、帰りの会計をひなたさんに任せていると、彼が小さなメモを渡すのが見えて。やはり彼もひなたさんに何かあると疑っているようだ。
・・・いや。僕に、かな。
下手をすると、本田冬真のことも調べ済みかもしれない。
コナンくんが帰った後、メモを見て固まる彼女を見てそれは仮説ではないことを確信する。
ピークが過ぎるまでは仕事に集中し、お昼にはいつだったか約束していた彼女のお弁当を食べた。
律儀にその約束を果たすひなたさんにまた罪悪感が実って。
ポアロも閉店となり、彼女を家まで送ることになった。毎回一度は断る彼女だが、押しに弱いことは知っている。
それが可愛さでもあり、利用しやすい部分でもあり、心配なところでもあった。
彼女をポアロの前へ置いて足早に車を取りに向かう。
車に乗ってポアロの前へ停車すると、座り込んで震えている彼女の姿があって。
「ヒナタさん・・・!?」
慌てて車を降りて駆け寄った。護衛を外していたことをその時ばかりは悔やんだ。
「どうしたんですか?」
座り込む彼女の隣にしゃがみ込んで、顔をのぞき込む。僕の顔を暫く見つめて、涙を溢れさせた。
「あむろ、さん・・・っ」
絞り出すような声。僕の服の裾を掴み、小刻みに震えている。どうして彼女を1人にしてしまったのか。そればかり自分に問いただして。