第71章 純黒の
「・・・動いたな」
「え?・・・っきゃ・・・!?」
ギリギリ聞き取れるくらいの声量で赤井さんが呟くと、急に車のスピードを上げて。
大きく体が揺れ、思わず掴めるところをなりふり構わず適当に掴んだ。
「ちょ、赤井さん・・・っ!」
「まだ喋るな、舌を噛むぞ」
そう言うと彼は荒々しくハンドルを切って。
話は車に乗ってからじゃなかったのか、と文句すら言う暇も与えられず、揺れる車内で彼を睨みつけた。
「安室くんは無事だ。とりあえずは、な」
気にしている事は分かっていると言わんばかりに、それだけ告げられた。
ただ、どこか引っ掛かる言葉を付けられて。
「とりあえずって・・・どういうことですか」
まだスピードはあるものの、ある程度安定のある走りになった所でそう問うと、彼は一瞬視線をこちらにやって答えた。
「ジンの元へ彼は向かっているようだ。ベルモットと共にな」
ジンの所に・・・それも、ベルモットと一緒に?
「正確には、ベルモットが安室くんを、ジンの元に連れて行っていると言った方が正しいか」
「!」
・・・それって。
「れ・・・っ、・・・透さんは、どうなるんですか」
「ジンは、疑わしきは罰せよという考えの持ち主だ。恐らく・・・殺すつもりだろうな」
・・・やっぱり、と思ってしまった。
どこかで分かってたはずなのに、信じようとしていなかったんだ。
分かっても・・・自分ではどうする事もできなかったから。
「赤井、さん・・・っ」
「情けない声を出すな。だから俺に助けを求めに来たんじゃないのか」
そう、だけど。
いざ現実を突き付けられると、やはり冷静ではいられなくて。
こんな時でも私は何もできない。
私には・・・力が無さ過ぎる。
だから今は誰かに頼る事しかできなくて。
それがとても、悔しかった。
「零を・・・助けてください・・・っ」
情けない声かもしれない。
顔だって、涙で濡らし過ぎているかもしれない。
そんなこと、気にもできないくらいに思考は冷静じゃ無かった。
でも。
「頼まれなくても、助けるつもりだ」
その言葉にまた涙が溢れて。
段々と、落ち着きの無かった思考は冷静さを取り戻していったように思えた。