第70章 巡遭い
『それは構わんが、完全に修復できるとは限らんぞ』
「ああ。あ、それと観覧車で彼女が発作を起こした時、何か言ってたみたいなんだけど、その内容を知りたいんだ」
それは初耳だった。
恐らく、歩美ちゃんが観覧車から電話をしている時にコナンくんに伝えたのだろう。
その時、私はスタッフルームに走っていたから。
『ああ!それなら途中からですが、ちゃんとメモを取ってありますよ』
少し遠くの方で光彦くんが、そう話す声が聞こえて。
彼は電話先で、取ったメモを読み上げていった。
『えーっと・・・、スタウト、アクアビット、それと・・・リースリング・・・って、言ってました』
「!!」
普段耳にする機会は少ないが、一応私でもその言葉が何なのかは知っていた。
それは知識豊富なコナンくんも同じだったようで。
・・・今のは全て、お酒の名前だ。
つまりそれは、組織で使われているコードネームの可能性が高い。
今度はきっちり合った視線で、互いに確信した。
彼女は組織と、何らかの関わりがあると。
「・・・博士、今日ポアロに安室さんは」
『安室さんか?そういえば今日は見とらんのお』
念の為かコナンくんが尋ねてみるが、その言葉の後に返ってきたのは、今朝突然休ませてほしいと連絡があり、何度か折り返しているが電話に出ない、という内容の梓さんの声だった。
それを聞いてコナンくんは博士に軽くお礼を告げると、電話を切ってスマホをポケットにしまい込んだ。
やっぱりこの一件に・・・零も関わっているのだろうか。
「・・・コナンくん」
「何・・・?」
だとしたら。
私に・・・できる事は。
「私も、博士の手伝いをさせて」
「え・・・?」
それくらいしかできないけれど、少しでも力になれればと思った。
「で、できるの?」
「多少なら大丈夫」
大した物ではないが、追跡用に盗聴器と発信機とを連動させたりもした事がある。
・・・あれ以来、それを使ってはいないし、データ関連の知識も薄れ始めてはいるけど。
「・・・分かった、お願いする」
「ありがとう」
他に言いたいことは視線で訴えた。
鋭い彼は、それも読み取ってくれたようで。
この時ばかりは心底、こういう趣味を持っていて良かったと思えた一番の瞬間だった。