第70章 巡遭い
「ねえねえ、大丈夫?お姉さん。顔汚れてるよ?」
その女性にコナンくんが声を掛けた。
確かによく見れば、彼の言葉通り服も何かで汚れ、体には所々傷ができている。
・・・見た目では日本人では無さそうだけど。
「わあ!お姉さんの目、左右で色が違うんだね!」
「日本語、よく分からないんじゃない?」
近寄ってそういう哀ちゃんに、ベンチに座る女性は首を振って。
「分かる・・・分かるわ」
その言葉に力は無く、明らかに異常な状況だということはこちらも分かった。
この場には何ともミスマッチだ。
「どうしたの、こんな所で。お友達もいないみたいだし。それに・・・怪我してるよ。スマホも壊れているみたいだし」
そう言って彼は、ベンチの上に置かれていた割れているスマホを手に取って。
「これ、ちょっと見せて」
「ええ・・・」
「お姉さんは、いつからここにいるの?」
コナンくんがスマホを調べる間、哀ちゃんが女性にそう尋ねて。
だが、彼女は考えたまま暫く制止してしまった。
「じゃあ、どこから来たの?」
僅かに子どもっぽさを混ぜながら哀ちゃんが再度そう尋ねると、彼女は首を振ってこう答えた。
「・・・分からない」
そう答えた瞬間、皆で顔を見合わせた。
「あの・・・お名前は・・・?」
質問攻めにするのも悪いと思ったが、今度は私が恐る恐る彼女に尋ねた。
「名前・・・?・・・ごめんなさい、分からない・・・」
苦しい表情を浮かべながら彼女は俯いてしまって。
やはり、これ以上質問を重ねてはいけなかっただろうかと、彼女の表情同様、心がキュッと苦しくなった。
「ちょっと、頭見せて?」
「え、ええ・・・」
子どもである哀ちゃんの指示に、彼女は大人しく従ってベンチに座ったまま頭を下げて哀ちゃんに近付けた。
「・・・大した傷じゃないけど、最近のものね」
「多分車に乗ってて事故に遭い、頭を怪我した」
「だとすると、外傷性の逆行性健ぼ・・・」
そう言いかけた哀ちゃんは、突然言葉を止めて。
何故止めたのかは、私にも気が付けた。