第70章 巡遭い
「じゃあ、私が危険な立場だっていう理由・・・今私が知っている事以外で、一つだけ教えてもらえないかな」
あの時とは違う理由がきっとある。
水面下で動いている事があるはずだ。
それは零や沖矢さんの言動で察しているつもりで。
問い掛けた直後、彼は歩みを進めながら前をしっかりと見据え、重たそうな口をゆっくりと開いた。
「・・・また組織が動いてる。今度は・・・ジンっていう男が」
低く、言いにくそうに、一言だけそう告げられた。
それに対して何も言えなくて、何も聞けなかった。
「如月さんは知らないかもしれないけど、ジンは本当に危険・・・」
「分かってる・・・知ってるよ」
あの時、嫌という程味わった。
その男からの恐怖は。
声だけであれだけの恐怖を感じさせる人間だ。
まともな筈が無い。
ベルモットにも十分恐怖の感情はあったが、あの時の男は桁違いだ。
その男が・・・動いてる、のか。
「僕もできる限りはフォローするけど・・・もう色んな事を調べに出るのはやめた方が良いと思う」
あの時の、波土さんの時のような行動を言っているのか。
・・・そう思うと、あそこにいたのがベルモットだったのは、不幸中の幸いと言えた。
「・・・分かった」
「素直なんだね?」
意外だ、と言わんばかりの目を向けられながらそう問われると、小さく微笑んでは彼の方を向き直した。
「透さんに迷惑掛けたくないから」
自分でも呆れるくらい、私は彼中心に生きている。
もう私には、彼しか残されていないから。
「・・・そっか」
複雑な表情で一言返事をされて。
半分は信じられていないのだな、と感じれば、やはり彼は鋭いな、とも同時に思って。
場合によっては動く可能性がある事を・・・彼はきっと察している。
そこにどんな危険が潜んでいようと。
私も、次に自ら危険な事を行う時は・・・命を犠牲にするくらいの覚悟は出来ている。
どうせ、一度死んでいるようなものだから。