第9章 仮の姿
公安としての仕事があったため、次の日は念の為1日部下に見張らせた。
買い物に出た様子はあったが、殆ど家にいたと報告を受ける。
まだ彼女の中で傷が癒えていないことは分かっていた。それでも無理に笑おうとする彼女の笑顔に毎回心が痛んで。
その翌日は梓さんがポアロの予定だったが、裏で手を回して梓さんに午前中だけ用事ができるようにした。代わりに自分が出勤するために。
ある程度の彼女の行動パターンを掴む為に、初日は少しだけ彼女を自分で張り込むことにしたからだ。予定通り午前中はポアロへ出勤という形になり、当日の朝ポアロで彼女が来るのを待った。
「おはようございます」
伺うように入ってくる。例の如く、直前にきた部下の連絡で近くまで来たことは分かっているが。
「おはようございます、如月さん」
テーブルを拭いている手を少しだけ止めて視線を向ける。案の定、驚いている様子の彼女を見ていたずらっ子のように笑みが零れた。
「梓さんは午後から来られます。それまでは僕がお仕事の内容を教えますね」
「は、はい・・・!お願いします・・・!」
パタパタと準備をする動作ひとつひとつが一生懸命で可愛らしい。どうして自分は彼女がこんなにも気になるのだろう。
正直その理由は、いつもぼんやりしていて。
一通り仕事の説明をし終えると、緊張からか彼女の顔が強ばった。暫く社会から遠のいていたようだし、彼のこともある。
元気づける気持ちも込めて、彼女の頭にポンッと手を置いた。
「大丈夫です、僕がいますから」
そう言葉をかけた。恥ずかしがった様子で逃げて行く彼女に、また笑いそうになって。
午後までという時間はあっという間だった。
梓さんの出勤時間となり、如月さんへも休憩の指令が出された。それに合わせて賄いを食べるか尋ねたが、弁当を持参したと言われ。
だからあの大きな保冷バッグを持っていたのかと納得したが、それにしては大き過ぎないかと疑問に思った。
昨日、1人にしては多めの買い物をしていた報告を受けていた為、もしやと思う。彼女がスタッフルームに入って暫くして。
「・・・やっぱり今日は食べずに帰りますね」
「そうですか?気を付けて帰ってくださいね」
梓さんにそう告げて、スタッフルームのドアをノックした。