第69章 井の中
「い、行く・・・!」
慌てて準備をしに部屋へ戻り、忙しなくそれを済ませて部屋を飛び出した。
「朝食はポアロを借りよう。試作したいものがあるんだ」
そう言いながら子犬を抱き抱え、駐車場に向かう彼の隣を歩きながらその姿を横目で見た。
相変わらず、どんな事にも手を抜かない彼を凄いと思ったと同時に、やはり心配になるのは体の事で。
ただでさえこんなに忙しい毎日を送っているのに、私の事まで面倒を見てくれて。
確かにこんな状況なら、なるべく私に動いてほしくないという気持ちも、分からないでもない。
「気を付けるんだよ」
河川敷に着くと、子犬を元いた橋の下へと帰して。
不安そうに何度もこちらを振り返りながら見つめるその子が、気になって仕方がなかった。
走り去る車を暫く追い掛けてくる姿は、胸が痛くなって。
「・・・・・・」
きちんと自分で部屋を持っていれば、あの子を家族として迎えていたかもしれない。
けれど、今はどちらの家も彼の物だから。
・・・いや、今はそんな事言えた立場でも無い。
ーーー
それから数日後の事だった。
「?」
一人で事務所で資料を整理していると、見知らぬ番号からスマホに電話が掛かってきて。
疑問には思ったものの、不思議と何の違和感も無く、その電話をとった。
「もしもし・・・?」
『あ、もしもし。如月さん?』
この声は・・・。
「コナンくん?」
『うん、突然ごめんね。これ、僕のもう一つのスマホなんだ』
それは良いとして。
「何かあった・・・?」
『ちょっとお誘いなんだけど・・・如月さん、今週末空いてたら水族館行かない?』
水族館・・・?彼と・・・?
『あっ、えっと・・・アイツらが如月さんも誘いたいっていうからさ・・・』
私の沈黙で悟ってか、誤解を解くように慌てて彼が言葉を挟んだ。
そして、アイツら・・・というのは恐らく、コナンくんの同級生である彼ら達のことで。
そういえば、最近会っていなかったな・・・と思い出しながら、事務所のソファーに腰掛けた。