第69章 井の中
「あの時の男達は既に身柄を拘束している。気休めにしかならないかもしれないが、もうひなたに関わることはないから安心しろ」
そう、だと良いけど。
関わることはなくても、あの人達には大きな傷を残された。
それは目に見えないものだけど、目に見える傷よりよっぽどしつこく、消えない傷で。
しかも、二度も。
「・・・もう少し、図太くならないとね」
一々気にしてなんかいられないのに。
もっと・・・色んな意味で強くならなきゃ。
「ひなた」
改まって名前を呼ばれ、彼に肩を再度掴まれて。
「今は自分の身を守る事だけ考えるんだ。そして、頼る事を忘れるな。・・・いいな?」
彼の言葉で悟った。
やっぱり・・・何かこれ以外で危険な事が動いている。
だから赤井秀一も接触を図ってきた。
それはきっと、ベルモットの事だけではないはずで。
「・・・・・・」
素直に頷けなかった。
頼ることに関しては、今でも頼りきっていると思う。
ただ、自分の身を守る事だけ、というのは・・・零に何かあっても関わるな、と言われているようで。
「ひなた」
分かったか、と問うように呼ばれるが、視線が落ちただけで首を縦に動かす事はできなかった。
「・・・分かった」
言葉だけ。
分かってなんかいない。
それでも今の私が出来ることは限られている。
我儘を言う事ができるのは・・・何かできるようになってからだ。
ーーー
あれから三日経った。
しっかり休んだおかげか、体もだいぶ良くなった。
その間、零はポアロにも、公安にも、そして組織にも顔を出していたみたいで。
何処に行くのかは知らされないまま、彼は毎日家を空けたが、彼の雰囲気を見ていれば、今日は誰になっているのか分かってきて。
私は家を出る事を許されず、外では近くを風見さんに見張られている状態だった。
遅い時は日付けが変わってから帰宅することもあったが、どんなに遅く帰って来ても、彼は笑顔で帰ってきてくれた。