第69章 井の中
「・・・・・・っ・・・?」
・・・苦しい。
何かが、おかしい。
「・・・っは・・・ぁ・・・は・・・ッ」
息が、上手くできない。
吸えなくて、吐けなくて。
自分の胸元を掴み、襲ってくる苦しさに耐えた。
「・・・ッ・・・」
得体の知れない不安が押し寄せて、目が回る。
怖くて、怖くて仕方がない。
前にも、似たような感覚を感じた事がある。
あれは・・・確かミステリートレインで・・・。
「ひなた・・・!?」
いつの間にか溢れていた冷や汗を流しながら、声の聞こえた方へ目を向けた。
血相を変えた零が駆け寄ってきては、私の肩を持って。
「・・・大丈夫だ、落ち着いて。ゆっくり呼吸をすることだけ考えろ」
優しく彼の腕の中に包まれると、その温かさがゆっくりと伝わってきて。
ただ、安心はしているものの、呼吸は中々安定しなかった。
「ひなた・・・」
優しく、落ち着いた声で、彼は何度も名前を呼んでくれた。
その度に体に入る空気は増え、荒くなっていた呼吸は落ち着きを見せていった。
「・・・れ・・・い・・・」
ようやく言葉を発せるまでに落ち着いて、一番に口にしたのは彼の名前だった。
「大丈夫だから、そのままゆっくり呼吸を続けるんだ」
言われるがまま、今は落ち着くことだけに神経を注いで。
底知れない不安は残ったままだが、呼吸や冷や汗、目眩は殆ど無くなっていった。
「・・・もう、大丈夫」
落ち着いた事を再度確認し、彼の体からゆっくり離れると、不安そうに見つめる彼の目を見つめ返した。
ああ、また、心配も迷惑も掛けてる。
なんて・・・情けない。
「・・・悪かった、配慮が足りなかったな」
「そんな事ない・・・零がいたから、これで済んだんだよ」
誰も居なかったら・・・彼じゃなかったら。
それを考える方が今は怖いくらいで。