第69章 井の中
「・・・でも、赤井さんは教えてくれたんだよね?」
別に彼の肩を持つつもりは無い。
けれど、その情報を零に知らせてくれた事、赤井さんが直接向かって来なかった事に関しては、珍しく好感の持てる行為だ。
「悔しい事だが、な」
きっと、赤井さんからの情報が無くても、彼は私を探し出したと思う。
でもそれは恐らく、もう少し遅い時間での事になっただろう。
彼にとって、どっちが良かったのかは・・・分からないけど。
「・・・だから今日は、事務所に帰ろうとしなかったの・・・?」
何となく、雰囲気で察していた。
今日もここに泊まるのだと。
「・・・それもあるが、その体で外に出したくないからな」
確かに、今は誰が見ても明らかに異常のある動きをしている。
歩くことさえままならない。
今ここを動く事はデメリットしか無い・・・ということか。
ーーー
解体してしまったスマホを元に戻し、軽めの食事をとって。
食べないといけない事は分かっていたが、何となく体が受け付けなかった。
「ひなた」
「ん・・・?」
食器を片付け終えた彼が、ベッドに座る私の前に跪いて。
「腕、出して」
何の為かは言わないが、傷を見る為だと察すると、黙って自身の腕を差し出した。
袖を捲り上げると、露わになった包帯をゆっくり解いていった。
ただ、その痕を見るのが怖くて。
思わず瞼を閉じて顔を逸らした。
「・・・だいぶ落ち着いているが、擦れた部分は少し火傷になっているな。薬を持ってくるからそのまま待っていてくれ」
そう言って少し遠のいた足音に、恐る恐る僅かに目を開けた。
怖い、けれど自分の体がどうなっているのか気にはなって。
ゆっくり視線を腕の方に向けると、彼の言った通り少し痕の残る腕が目に入った。
今は誰にもその部分に触れて欲しくないと思ったが、不思議と零だけは・・・そこに触れていて欲しいと思った。