第69章 井の中
「どうしてこんなの・・・」
赤井秀一の言葉を使うならば、守る為・・・だろうか。
そうだとするなら、これは過剰過ぎる。
私にとって、迷惑極まりない。
・・・ただ、今回ばかりはそうとばかりも言えなかったみたいで。
「・・・・・・」
「・・・零・・・?」
ジッと、潰されたそれを見つめる彼の表情は良いとは言えなくて。
眉間に皺を寄せ、悔しさや怒りをを感じているような表情で。
「アイツが、僕に知らせてきたんだ」
「・・・赤井さんが?」
それは数分前にした質問の答えで。
何故、あの場に零が来る事ができたのか、という。
言われてみれば、彼はあの場に来た時、とある人物の忠告で・・・と言っていた。
「あのグループが度々ポアロに出入りしていたのには気が付いていた。けれど、危害を加える様子も無かったから、ひなたを目当てに来ているんだと思った」
・・・だからあの時、わざわざ私を中に入れたんだ。
あのグループに近付けさせない為に。
そこは何となく・・・彼らしい。
「・・・でも、あんまり見ないお客さんのようだったけど・・・」
「来る時の人数や人を、その度に変えていたからな。それに、軽い変装までしていた。だから少しマークしてたんだ」
仕事をしながら、そんな事まで見ていたなんて。
それに気付く事すらできなかった私は・・・やはり相変わらず注意力が足らないようだ。
あの時、電話の内容をちゃんと伝えていれば良かった。
そうすれば、零が代わりに行くこともできただろう。
いつものように、後悔だけが押し寄せて。
こんな事ばかりだ。
何もできないで迷惑ばかり掛けて、彼に嫌な思いをさせてしまう。
「・・・許せないんだ。アイツも、僕も・・・」
キツく握られた拳に気付いたのに、何もできなかった。
こういう時、どうしたら良いのか、どう声を掛けて良いのか分からない。
彼が自分を許せないように、私も自分が許せなかった。