第68章 蔑んで※
「・・・ッ!!」
彼に縋っていた体はいつの間にか壁へと押し付けられていて。
目の前には肩で息をし、数秒前とは明らかに目つきの違う零がいた。
「れ・・・」
「そんな顔・・・相手を煽るだけだぞ・・・」
そう言葉が聞こえたと思った時には、さっきのように口が塞がれていた。
押し込まれるように深く、舌は別の生き物のように感じるくらいに妙な感覚で。
キスだけなのに、体は勝手にビクビクと反応していて。
「ん、ふ・・・っんん・・・ぅ・・・ッ」
口の端から唾液が溢れ、同時に、泣きたくもないのに涙が溢れた。
「・・・っん、あ・・・やぁ・・・ッ!!」
唇から離れた彼の口は、私の体からは離れることがないまま、頬を伝って耳の方へと流れていった。
元々弱い部分なのに、今の状態で彼の舌が這って平気な訳は無くて。
過剰なくらいビクッと体を跳ねさせると、彼は貪欲にそれを誘うように、わざとらしく音を立てては耳をねっとりと舐めあげた。
「・・・もう、止めろって言っても・・・無駄だからな・・・」
構わない。
声は出なかったけれど、小さく頷いてそう返事をした。
「ん・・・ッ!」
零の手が少し肌に触れただけなのに、何故か感じてしまう。
そして今更ながら、自分が我慢して黙っていれば良かったのだろうかと後悔が押し寄せて。
快感を与えられる度、何かに不安になる。
その不安に押し潰されそうになる。
何もかも、もう遅いのに。
「あぁ・・・っ!ふ、ぁ・・・ッ」
知らぬ間に下着のホックを外され、下から彼の手が忍び込んできて。
蕾を摘まれ、グリグリと指先で転がされては淫らに甘い声を吐いた。
何も考えたくないのに、思考だけは冷静で。
彼の事だけを感じたいのに、不安ばかり押し寄せて。
体は熱く上手く動かないのに、ふわふわと浮いているような感覚で。
段々とそれらの感覚で、自分が自分じゃないような気さえしてきた。