第67章 根無草
「・・・風見さん、呼ぼうか・・・?」
私一人では、男の彼を運んであげることもできない。
それに、病院に連れて行くにも一人だけでは不安な上、この格好では外を出歩くのもままならない。
返事は無く、変わらず何かに耐える彼にこれ以上、こちらが耐えられる自信が無くて。
「待ってて・・・電話してくるから・・・」
覆い被さる彼から一度逃れようとするが、力の入り切っている彼と力の入らない私では、体勢や体格以上に難しいものがある。
それでも何とか彼を起こそうとしていると。
「れ、零・・・!?」
着せられていた彼の上着を勢いよく開かれ、素肌があっという間に晒された。
状況が理解できないまま戸惑っていたその瞬間、今までこれ以上の違和感の無かった体が、おかしいくらいに発熱したように熱く感じ、息は勝手に荒々しくなっていった。
「・・・っ、れ、・・・い・・・ッ」
体が、おかしい。
熱く、苦しい。
なん・・・だろう。
体が何かを求めている。
ドクドクと大きく脈を打ち、何もしていないのに体が痙攣する。
今、体がただひたすらに、貪欲に求めているのは・・・。
「れい・・・っ、零・・・!!」
目の前の彼で。
「・・・・・・ッ」
それはどうやら、彼も同じ状況だったようで。
ずっとこんな状態に耐えていたのかと思うと、気が狂いそうになった。
私は彼にとって、一番惨い行動をとっていたんだと、その時やっと気付くことができた。
「・・・ひなたっ」
我慢の限界だ、とでも言うように、次の瞬間には荒々しく口を塞がれていた。
いつものキスではない、貪るようなキスで。
一方的に食べられてしまうようなそれは、いつもより何かを敏感に感じている。
「・・・っんぅ、ん・・・!」
ただ唇や舌が触れるだけ。
それだけなのに、体は敏感過ぎるくらいに痙攣していて。
あの時嗅いだ甘ったるい匂いのせいだと気付いていても、それはもうどうしようも無いことだった。