第67章 根無草
「降谷さん!」
「風見、そっちを頼む」
階段を降りてきた風見さんが焦った様子で声を掛けるが、彼は反対に淡々と指示を出した。
「は、はいっ」
風見さんが返事をすると、公安だと思われる人達が数人、地下の方へと降りてきて。
公安の人達が来ているということは、この男達は薬以外のこともやっている、という事か・・・。
そう思っている中、零が転がっている私を抱えようと、首筋と膝裏に手を滑り込ませた時だった。
「・・・・・・っん・・・!」
妙に過敏になっている体がビクッと反対をしたと共に、僅かにそれに伴う声が漏れた。
予想しない瞬間に漏れてしまった声はこの上なく羞恥を感じ、顔を覆ってしまいたい気持ちで溢れたが、それをすることすら叶わなくて。
「・・・悪いが、少し我慢してくれ」
そうは言っても、これは私の意思じゃない。
けど、口を開いていればまた漏れ出てしまいそうだったから。
下唇に歯を立て、なるべく口が開かないように気をつけた。
「遅くなって悪かった」
体を抱えられ、ふわりとそれが浮いて運ばれる最中、少し切なそうな声で謝られ、そんな事は無いと首を小さく横に振って、顔を零の体に擦り寄せた。
彼が傍にいるだけで、こんなに安心できるなんて。
でもそれに反して、私はいつも心配や迷惑ばかりを与えてしまっている。
それがこの上なく・・・申し訳ない。
「降谷さんっ!!」
「ッ!?」
風見さんが鬼気迫る声で名前を呼び、驚いて何事かと顔を上げた瞬間には、もうそれは遅かった。
「きゃっ・・・!」
壁側にあった大きな棚が、さっきの乱闘でバランスを崩した為か、大きくこちらに傾いてきていて。
声を上げた時には、もうぶつかっていたんだと思う。
「・・・零・・・っ」
彼の背中に。
「・・・・・・っ、大丈夫、か・・・」
それはこっちの台詞で。
何か荷物の乗っている棚が重そうなのは一目瞭然だ。
彼一人だったら逃げられたかもしれないのに・・・私がいたから。