第67章 根無草
「・・・・・・っ」
大丈夫、とは思っているし分かってはいるけれど。
それでも怖くて零を見ることができず、目からの情報を断ち切り、塞ぐことのできない耳から、ただ男達の殴られていく音と、苦しそうな声を鮮明に拾った。
「ひぃ・・・ッ」
ものの数分、その音は落ち着きを見せ、再び靴音が近付いてくるのを感じたと同時に、後ろの方にいたストーカー男の怯えた声が部屋に響いた。
「貴方は確か、以前ひなたさんを追い回していた男ですよね。・・・その時に僕は言ったと思うんですが」
恐らく、零が男の目の前で歩みを止めた。
確認をしたくても、固く閉じた瞼は言うことを聞かなくて。
「金輪際ひなたさんに近付くな、と」
明らかに降谷零を醸し出しながら、その言葉が聞こえたと思った瞬間、何かが倒れるような音がして。
その瞬間、固く閉じていた瞼は嘘のように簡単に開いた。
その目に飛び込んできたのは、さっきまで私を取り囲んでいた男達が転がる様子と、ストーカー男が泡を吹いて仰向けで倒れている姿だった。
「・・・大丈夫か、ひなた」
上着を脱ぎながら私に駆け寄り、それを掛けては優しく声を掛けられた。
「大丈夫・・・なの、かな・・・」
言い切れれば良かったが、それができないくらいには精神的ダメージが大きくて。
素直に不安が漏れ出てしまった中、彼は男達が持っていたナイフを手にすると、腕を縛り上げていた縄を切っていった。
「・・・動くなよ」
彼がどこからか拳銃を取り出すと、それは私の足の方へと向けられて。
「・・・ッ!」
動けと言われてもそんな事できない状況で、何の合図も無く大きな破裂音が一発響いた。
反射的に目を瞑ったものの、足から伝わった違和感を感じれば、何が起きたのかくらいは分かった。
柱に繋がれていた鎖が弾き飛ばされ、手首と足首に若干の痛みが残っているものの、ここから自由になることは許された。