第67章 根無草
「あの男は来ないよ・・・!来たとしても今頃・・・」
男が何かを言いかけたとき、上へと続く階段から大きな音を立てて何かが転がり落ちてきた。
「な・・・っ」
床に転がされ、男達の足が邪魔でよくは見えないが、恐らくあれは・・・人。
それも屈強な体つきの大きな男だ。
どうやら男は気を失って伸びているようで。
・・・そんな男が、なぜ。
「おい、何やってる!」
私を取り囲んでいた男の一人が、倒れる屈強な男の元へと駆け寄り声をかけるが、返事が返ってくることは無く。
「上の様子を見てこい・・・!」
ストーカー男が命令をすると、声を掛けた男は階段を駆け上がって行った。
「ぐぁッ!!」
「!?」
しかしその数秒後、またしても男は先程の男同様、階段を転がり落ち床へと叩き付けられた。
「どうなって・・・」
男達がジリジリと階段の方から距離を取って。
その場に居た全員の視線が一点に集まった。
「困りますね」
「・・・!」
その声が聞こえた瞬間、男達はざわつきを起こしたが、私の中は安堵でいっぱいになった。
ゆっくりと、コンクリートと靴が触れ合う音を響き渡らせながら姿を見せたのは。
「従業員を、勝手に連れ出さないで頂けますか?」
「透さん・・・っ」
余裕そうな笑みを浮かべた、彼だった。
「どうしてお前がここに・・・!」
それは・・・私も気になる。
ここがどこだか分からないが、彼はポアロに居たはず。
連れ去られる瞬間を見ていたのだろうか。
「まあ、とある人間の忠告から」
・・・何、だろう。
笑顔は残っているが、少し不服そうな物言いに、引っ掛かりを感じるようで。
「そんなことより、自分達の立場・・・分かっていますよね?」
透さんが一歩進めば男達が一歩下がっていったが、男達もいつまでもそうしている訳にはいかないと思ったらしく。
「くそ・・・っ、いけ・・・!」
ストーカー男の言葉を合図に数人いた男達は、周りにあった鉄パイプや、どこからか取り出してきたナイフなどを持ちながら、一斉に透さんの方へと走り出していった。