第67章 根無草
「そんな顔もいいね・・・すごくいい・・・!」
・・・ダメだ、何をしても何を言っても、ここにいる人間には通用しない。
逃げる方法を考えるだけ無駄なのは分かっているが、それでもその方法を考えてしまうのは、人間の心理なのだろう。
「・・・っや・・・い、た・・・ッ!」
乱暴に立たされ、そのまま床へと投げるように転がされた。
手首を縛られているせいで上手く受身をとることもできず、体は硬いコンクリートに打ち付けられて。
「おい、気を付けろ。傷がついたら勿体ないだろ」
また別の男がそう話す中、ストーカー男は転がる私の前にしゃがみ込み、片手で両頬を掴むように持ち上げた。
「そうだよ、こんなに可愛いのに・・・体もきっと、綺麗なんだろう・・・ね・・・!」
頬を掴む手とは逆の手には、いつの間にかナイフが握られていて。
それを服の襟口に当てると、勢いよく下へと動かした。
布が避ける音と共に、素肌に冷たい空気が当たるのを感じて。
かろうじて下着は切られていないものの、それはもう裸同然と言ってもいいくらいの露出だ。
本当は隠したい気持ちでいっぱいだった。
けれど私が抗えば抗う程、この男達は喜びの声を上げる。
そんなの・・・悔しいだけだから。
・・・言っている場合では無いけど。
「あれえ・・・どうしたのこの傷・・・痛そうだね・・・?」
ビリビリと無造作に服を切っていく中、ストーカー男は私の肩の傷に気が付いたようで。
「僕が舐めて治してあげるよ・・・」
「・・・・・・ッ」
言葉にも、声色にも、背筋が凍るくらいに悪寒を感じた。
これ以上、触れてほしくない。
零以外の人間に、触られたくない。
こんな男に・・・触れられたくなんて・・・。
「・・・ッ!」
「ぐぁ・・・ッ!!」
一撃としては、この力の入らない体では弱かったかもしれない。
それでも急所の一部である、みぞおちを狙って蹴りを入れれば、多少なりのダメージはあったようで。