第67章 根無草
「どう・・・して・・・」
「諦められなかったんだ・・・君が好き過ぎて・・・」
・・・この人、目がおかしい。
いや、この人だけに限らず、目の前に姿を現してきた男達全員の、様子がおかしい。
実際目にしたことは無かったが、一発で薬に侵されているんだと察しがついた。
「あの男が仕事中なら、君を助けに来られないだろう・・・?」
・・・そうか、だから二人で仕事中の今日を狙ったのか。
「こんなに上手く行くとは思わなかったけどね・・・?」
「・・・ッ!」
男が私の頬を指で撫でながら、限りなく耳に近い場所でそう囁いた。
その息が耳にかかった瞬間、過敏過ぎるくらいに体はビクッと反応を示して。
「いいね、いいね・・・!」
気味の悪い笑みを浮かべながら笑う男を見て、血の気が引いた。
正気でない人間というものを目の前にすると、恐怖というより絶望を強く感じるようで。
「薬もよく効いてるみたいだ・・・」
部屋の隅に置いてある香炉のようなものを開けながらそう呟く男の姿に、この甘ったるい匂いの正体が何なのか、少し分かったような気もした。
一番に言えることは、この薬は決して良いものでは無いということで。
「たくさん・・・遊ぼうね」
「・・・ッ!?」
背後から男達が腕を掴み、それを背後に持っていかれると、擦り切れそうな痛みと共に手首を何かで拘束された。
その間も体に力は入らず、頭はボーッとしているものの、意外と思考だけは冷静に働いていて。
・・・それも、どこまで保てるか分からないけど。
「い・・・ッ!」
間隔からして、手首に巻き付けられたのは恐らく縄のようなもの。
更にその上から、鎖の様なものも付けられて。
痛みと悔しさに顔を歪めながら目の前の男を睨み付けるが、男はそれが快感とでも言うように気持ちの悪い笑顔を深くさせた。