第9章 仮の姿
「もうこんな時間ですね」
時計を見ると七時を回っていて。つられるように彼女も時計を見る。そのまま外に視線を向けて何かに気付いたようだった。
見ると視線の先にはコナンくんがいて。
一言置いて彼女はコナンくんの元へと向かっていった。昨日のこともあるし、話をしに行きたくなった気持ちは分からなくもない。
それに対しては特に何の感情も抱かなかった。
彼女が僕に向けたことの無い笑顔で彼に笑いかけるまでは。
その瞬間に感じたことのない気持ちを抱えて。
それが彼女に対する責任感からくるものだったのか、醜い嫉妬心だったのか、単純なる好意だったのかは自分でもよく分からず。
コナンくんが彼女の耳元で何かを話していることにも、正直な気持ち近付いてほしくないと思ってしまった。・・・コナンくんだからかもしれないが。
戻ってきた彼女に笑顔で尋ねる。
「コナンくんと何話してたんですか?」
「色々、です」
何か含んだような言い草だったが、彼のことだ。余計なことは言っていないだろう。
そう思いながら、彼女にモーニングを進めてご馳走した。美味しそうに食べる彼女にどこか心が満たされて。
帰り際にペコペコと頭を下げる彼女に少し笑いが込み上げながら、笑顔で見送った。途中振り向いた彼女に優しく手を振って。
これは安室透として彼女に好意を抱いているのだろうか。それとも降谷零として責任感を感じているのだろうか。
整理のつかない気持ちを押し殺し、風見に電話をかけた。
「・・・風見か。ああ、予定通り僕の助手として雇うことにした。事務所へのカメラの設置は任せる。それと・・・」
彼女をポアロへも置くこと。
人手が足りないことはないが、僕のシフトを減らせば良い。そうすれば彼女を一人にする時間が減ると考えたからだ。
そのことを風見に伝え、梓さんとマスターにも相談した。
ポアロからはあっさり許可がおり、後は彼女を誘うだけとなった。
事務所へ初めて来る際の家から事務所までの道は、部下につけさせた。事務所近くになると連絡をもらい、あたかも今会ったように見せかけて。
キョロキョロと辺りを確認しながら歩いてくる彼女を確認して声をかけた。
「如月さん」
「安室さん!」
駆け寄ってくる彼女にまた気持ちが高まる。
守りたくなる存在とはこういうことなのか。