第9章 仮の姿
翌朝、仕事の為にポアロへ向かっていると、店の前で立っている一人の女性。
如月さんだった。
時計はまだ朝の六時半を指している。どうしてこんな朝早くにいるのだろう。
「如月さん?」
「安室さん・・・」
彼女は少し驚いた様子でこちらを向いた。
それが素直に可愛いと思っている自分も驚いた。
「どうしたんですか?こんなに朝早く」
「ちょっと寝ぼけて・・・出直しますね」
そう言って去ろうとする彼女の手を無意識に掴んだ。ここで返してしまうのは危険と思ったのもそうだが、何より
「大丈夫ですよ、開店準備をしながらでも良ければ話しませんか?」
彼女のことをもっと知りたいと思ってしまった。
こんな感情を持つことは久々で。
彼女を開店前のポアロに招き入れ、カウンター席を案内し座らせる。落ち着かないのか手伝おうとする彼女へ丁重にお断りの言葉を返した。
そこで一つの案が浮かぶ。
それを後で風見に伝えなければ、と思っていると。
「安室さんって探偵しながらポアロでバイトもされてるんですか・・・?」
彼女からそう聞かれた。確かに違和感はあるだろうな、と。
「ええ、勉強のために」
真の目的は違うが、表向きはそうなっている。
彼女は少し疑問を持っていそうではあったが、それ以上聞いてこなかった。
仕事を辞めたことは調べて知っていたが、改めて彼女の口からそのことを聞いて。
そして昨夜考えた、彼女を保護する計画をここから進める。
「如月さん、パソコンとか使えますか?」
使えることはすでに知っている。ある程度までは昨日のうちに調べ済で。
前職がパソコン仕事だったことも。
そして組織から目をつけられていることも。
その為に保護という名の監視は必要だと判断した。
「え?・・・ええ、機械には強い方ですけど・・・」
そう返す彼女に話を持ちかける。
「もし良かったら僕の助手として働きませんか?」
これで事務所にいる間は監視ができる。外にいる間は、護衛をつけることにして。
ずっと傍にいることはできないけれど、1人でいるよりは安全だろうと判断した。
最初は渋っている様子の彼女だったが、何とか押し切って早速明日から来てもらうこととした。事務所の地図を簡単に書いて手渡す。
近くにあったなんて、という彼女に、近くに用意しましたとは勿論言わず。