第66章 善と悪
「・・・まあ、危なっかしいことは否めない」
彼がゆっくり顔を上げるが、表情を確認できるような角度では無くて。
抱き締めたいのに、もっと触れ合いたいのに、素直にそれが行動に移せないのは何故なのか。
「ごめんなさい・・・」
謝ることしかできない。
謝っても仕方の無いことなのに。
「僕にも非はある。ひなたを信じていない訳では無いが、今後は僕も気を付けるとするよ」
「私も・・・勝手に動かないように善処する」
何が起きているかは知らないが、特に今は危険な状態なのだろうから。
コナンくんにも再度忠告されているということは、自分が思っている以上にそうなのだろう。
「ひなたが大人しくできるとは思えないが、な」
「で、できるよ・・・!」
クスッと笑ったと思えば、ようやくその表情を確認できた。
優しく、少し困ったような笑顔はいつ見ても心臓を締め付ける。
それは彼が好きだという思いからか、罪悪感のような気持ちからなのか、それとも全く別のものなのか。
ーーー
あれから数日後、零は公安の仕事に出たりもしたが、ポアロの仕事を多めに受けていた。
彼が行く日は私も合わせて向かい、一緒に仕事をした。
そろそろ一人でも大丈夫だと彼に伝えてはいたが、それを許可されることは無くて。
いつも決まって返されたのは、今はダメだ、という言葉だった。
「ひなたさん、お願いします」
「あ、はい」
この日もお客さんは多くて、バタバタとした一日ではあった。
「いらっしゃいませ!」
また新しく入ってきた男性達のグループをテーブル席に案内し、注文を取って。
「お願いします」
いつもと同じように、中で料理を担当している透さんにそれを伝える。
そして、空いているお皿を下げに向かおうとしたその時だった。
「ひなたさん」
透さんに呼び止められ振り返ると、彼は何故か中へと手招いて、こっちへ来るようにと言葉無しで伝えられた。