第66章 善と悪
「そこで波土禄道の話が上がったのか」
「う、うん・・・零が調べてたから、少しでも何か情報が得られれば、と思って・・・」
でもそれは結局、裏目に出てしまった。
波土禄道の新曲の事を、零が知っているという仮説を立てられなかった自分、そして、リハーサルに私が参加するのではなく、零に話を渡せば良かったと、今更後悔する自分がいて。
「・・・何も、されなかったか」
そう言った彼の視線は、どこか不安を帯びていくようにも見えた。
「・・・大丈夫、何も・・・されてない」
それを言って、まだ沖矢さんから渡されたスカートを履いていることに気が付いてしまった。
ここに帰ってからは何もせず、ソファーの上で寝てしまっていたから。
・・・赤は似合わない。
そう彼に言われた言葉は、今でも耳にこびり付いている。
「・・・・・・?」
黙ったまま、零の顔が私の肩へと埋められて。
柔らかな彼の髪が顔にフワッと触れた。
彼の体温が、鼓動が、吐息が、全身で感じられるくらいに体を密着させられて。
「れ、い・・・?」
怒っている?
呆れられた?
気にする資格も無いような不安を乗せて、彼の名を小さく呼んだ。
それに返事がないまま、数分は時間が経っただろうか。
「・・・すまない」
突然、零が口を開いたと思えば、そこから出てきたのは謝罪の言葉で。
「ど、どうして謝るの・・・」
私が謝る理由はあっても、彼が謝る理由なんて・・・。
「心配、と言えばそうなんだが・・・それ以上の事を、ひなたにはしてしまっている気がする」
・・・極端に言えば、束縛・・・と言いたいのだろうか。
でも、彼の心配は当たり前のようなもので、私はそれをさせてしまうような行動ばかり取ってしまっている。
「・・・それは、私が勝手なことばかりするから・・・」
貴方にそんなことを思わせてしまっている。