第66章 善と悪
赤井秀一の事となると、零は極端に冷静さを欠くから。
それは、私ではどうすることもできないくらい。
「・・・!」
部屋の中をただ呆然と見つめながらそんな事を考えていると、突然スマホが机の上で震え始めて。
慌てて手に取れば、安室透の文字が画面には表示されていた。
出る、以外の選択肢は無いはずなのに、少しそれは躊躇されてしまって。
それでもその指は、ほぼ反射的に応答ボタンを押し、スマホを耳に当てていた。
「・・・も、もしもし・・・」
少しは動揺が声に出ているかもしれない。
けれど面と向かっているよりは、きっと軽減されているはず。
そう信じて応答の言葉を口にした。
『今、どこにいる』
・・・今は降谷零か、と思うと同時に、今も手短に済ませたいという雰囲気が機械越しに伝わってきて。
「事務所に・・・いるよ」
『分かった、そこを動くなよ』
一方的にそう言われ、電話は早々と切られてしまった。
私の知らない何かが、水面下で動いている。
何となくそう思った。
けれど、それも私にはどうすることもできない。
何か、ということを調べることもできない。
やはり私は公安にとっても、FBIにとっても、そして零にとっても・・・お荷物のような存在なんだと思ってしまった。
ーーー
階段を駆け上がる音がする。
その音から、誰なのか、くらいは分かるようになっていて。
「ひなた・・・っ」
勢いよく扉が開いたと思えば、慌てた様子の零が靴を放り投げるように脱いで私の元へと駆け寄ってきた。
そのまま強く抱き締められると、どこか空っぽになっていた気持ちは、少しずつ満たされていくような感覚を味わった。
「・・・良かった」
小さくそう漏らした言葉は、何度も頭の中を駆け巡った。
確信は無いが、そのたった一言に何となく察することのできる状況があって。
きっと私はまた・・・危険な位置にいるのだと。