第66章 善と悪
「今日は目的を果たしている。だから引き上げさせてもらうが、油断はするなよ」
そう言い残し、案外あっさりと彼は部屋を後にして。
足音が遠のいていくのを感じると、本当に帰ったのだと確信はできた。
ただ、安堵のため息を吐いたのも束の間、赤井さんの行動には違和感しか残らなくて。
ただ傷を確認するだけなら、今までのように沖矢さんを使えば良いのに。
どうして今回に限って彼本人が、事前に連絡も無くここへ来たのか。
私が居ない可能性もあっただろうに。
・・・それとも、私がここにいることは確実としていたのだろうか。
沖矢さんと常に情報を共有しているのであれば、不自然な事ではないと思うが。
「・・・・・・やめよう」
考えたって時間の無駄だ。
こういうことに、真実を見つけ出す能力は残念ながら備わっていないから。
今はとりあえず、一番可能性のある仮説が事実かどうかを確認する必要がある。
そう思って、零がよく部屋中を調べる盗聴発見器を引き出しから取り出してきて。
赤井秀一が部屋に盗聴器の類を仕掛けていないかだけを調べ始めた。
私が考えられて、調べられて、対処ができる事柄はそれくらいだから。
鳴らないことだけをただひたすらに祈りながら、部屋中をくまなく調べた。
「・・・・・・」
鳴らない発見器を見つめながら、ふと自分の気持ちを思い返して。
・・・今、私は盗聴器が見つからないことを祈った。
それを一番疑わしく思い、調べているのに。
矛盾するような気持ちに一時手が止まったものの、とにかく部屋中を調べ上げた。
結局、それが反応を示す事は無かったけれど。
今一番不安なのは、彼が何かしらの痕跡を残しているかどうか、ということ。
私の知らないところに・・・そして零が気付きそうなところにそれがあるとすれば、今は言葉通り絶望的な状況と言えた。