第9章 仮の姿
暫くの間、今後の動きを考えて彼女へ一つの提案をした。
「如月さん。良ければこの依頼、僕に任せてくれませんか?」
もし彼女が毛利探偵に依頼すると、彼や蘭さんにも危険が及ぶかもしれない。なるべく自分で・・・公安で彼女を保護した方が良いと考えた。
それに、この小さな探偵・・・コナンくんがまた首を突っ込みかねない。
既に片足を踏み入れている状態ではあるし、これからも踏み込んでくるのだろうけど。
突然の提案に彼女は戸惑っているようで。
それでもコナンくんの後押しもあり、彼女も僕を少なからず信用してくれた様だった。
「じゃあ・・・お願いしても良いですか?」
「もちろん」
本当はもう、彼の人生の末路は知っている。調査する必要はなかった。
それでもそれを隠すため、そして彼女を保護するために動かなければならない。
「ただし、仮にこれが殺人で犯人がいた場合、見つかっても復讐しようなんて思わないでくださいね」
それを聞いた彼女は少し図星をつかれたような顔で。気持ちは分からなくもない。
僕も殺したいほど、憎んでいる人間がいるから。
「大丈夫です」
少し経って彼女から返ってきた言葉は力強く、眼差しからも決意が見えた。
彼女は強い。そう思った。
依頼内容は、彼がこの世からいなくなった理由が知りたい、とのことだった。
それに対しての答えはもう出ていたのだが。今は真実を告げる訳にもいかず、なるべく調査が難航する形で考えた。
その後、形だけの話を彼女から聞いて本当に彼が大切な存在だったことを痛いほど思い知らされた。
今思えば、もうその時には彼女に惹かれていたのかもしれない。
「わかりました、早速明日から僕も調査してみます」
「よろしくお願いします」
その日はそれで彼女と別れた。
不思議と彼女のことが頭から離れることはなくて。
それは依頼の内容のせいか、はたまた。
少しでもそれを忘れる為に、その日はポアロでの仕事に没頭した。