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【安室夢】恋愛ミルクティー【名探偵コナン】

第66章 善と悪




「お願いするよ。君がいれば安心だ」

声だけが鮮明に耳に入ってくる。
でもそれは聞いているというよりは、聞こえていると言った方が近かった。

「では、行きましょうか」

零には何も言えないまま、視線も向けられないまま、沖矢さんが私の肩を持ち支えながら会場を後にした。

足が重い。
大した距離でもない駐車場までの道のりが、すごく遠く感じて。

「・・・如月さん、大丈夫?」
「・・・・・・うん」

まともに返事すらできない。
聞こえているものに、ただ答えただけ。

きっと何を聞かれても、そう答えていただろう。
・・・沖矢さんの質問が来るまでは。

「彼の考えが、そんなに不服ですか」

その質問で、やっと少し自我が戻ったような気がした。

でも思考回路はあまり働いておらず、口を動かすのもやっとだった。

「・・・いえ」
「そうは見えませんけどね」

私の返事は、少し食い気味で沖矢さんに掻き消されて。
まるで、私がそう答えると分かっていたように。

「今は致し方無いのでは」
「分かって・・・ます」

分かってるから、辛いんだ。

「・・・ねえ、如月さん」

隣を歩くコナンくんに、やっと目を向ける事ができた。
私を見上げる彼の視線は、とても強く真っ直ぐなもので。

「如月さんは、自分で思ってるより危険な立場だってこと、忘れないでね」

・・・忘れていない。
忘れていない・・・つもりだ。

・・・ここでもまた、つもりなんだ。

いつだって自分の考えに自信が無くて、簡単に揺らいで、不安定この上ない。

こんな小さな探偵さんに諭されるくらい、自分は情けなくて仕方が無いんだ。

「ごめん・・・」

今はそんな言葉しか出てこなかった。

その後の会話は無いまま、沖矢さんの車が止まる駐車場に到着して。
無言を貫いたまま車に乗り込めば、途端に視線は足元へと落ちていった。


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