第66章 善と悪
「そのハイネック、この場でめくりたい衝動に駆られてますが・・・今は止めておきましょう」
皆が帰る雰囲気を出している中、零が沖矢さんに詰め寄りながらそう話して。
恐らく、変声機のことを言ってるんだろうけど。
どうしてそこまで彼が赤井秀一だと思うのだろうか。
・・・いや、私も怪しいと思う節はあるけれど、それは尽く潰されているから。
怪しむ余地も無いと言う、か。
「いずれまた」
そう言って彼が立ち去ろうとした時、零が同時に私の腕を引いて。
「・・・っわ・・・」
でもそれは反対側からも同じ事が行われ、片方に引かれていくことは阻まれた。
「彼女は僕がお送りしますよ」
反対側から腕を引いていたのは、予想通り沖矢さんで。
反射的にそちらへ視線を向けるが、そこにはいつもの不敵な笑みは無かった。
あまり見ることの無い、真剣な眼差しを零に送っていて。
「・・・・・・・・・」
いつもならすぐに反論するはず。
けれど、零は何も言わないまま沖矢さんをジッと見つめていて。
「・・・透、さん・・・?」
暫くして、彼は何も言わないまま、その手をゆっくりと離した。
故に、私の腕を掴むのは沖矢さんだけとなって。
「不本意ですが、今回はお願いしましょうか」
「・・・っ」
分かってる。
彼の傍にはベルモットがいる。
私が零に着いていけば、どういうものかは分からないけれど、それでも危険を引き連れる可能性がある。
ここは沖矢さんにお願いした方が良いことは分かっている。
・・・けれど、その判断はどこか胸を締め付けて。
厄介者な自分が否めなくて。
「責任を持って、お送り致しますよ」
そう言いながら、彼は私を引き寄せて。
されるがまま、体はよろよろと沖矢さんの方へと動いた。
「ねえ、僕もついて行って良い?」
どこからともなく、コナンくんの声が聞こえて。
けれど、その方向へ視線を向ける気力さえ無い。
想像以上に受けたダメージは、体を動かす能力を完全に奪ってしまっていた。