第66章 善と悪
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あれからまた数十分、零が付かず離れずの距離を保っていたから、私もなるべくその場にいる事にした。
暫くして、波土禄道の胸のポケットに入っていたメモは、波土禄道本人が書いたものだということが分かったようで。
それを聞いてマネージャーさんと、レコード会社社長と、ジャーナリストの三人は何か言い合いを始めてしまった。
その間も、変わらず零は沖矢さんを鋭い眼差しで睨みつけていて。
どうする事もできない自分がやるせない。
零のことも、沖矢さんのことも、自分のことも。
「大丈夫?如月さん」
「・・・え?」
俯いてそんな事ばかり考えていた私に、コナンくんが突然話し掛けてきて。
咄嗟のことに、思わず数秒動きが止まってしまった。
「何か、顔色悪いよ。気分悪い?」
「ううん、大丈夫・・・ありがとう」
彼にはいつもそんなことを聞かれている気がする。
それは私が、毎回彼といる時にこんな状態になるからなのか、それとも彼が周囲に気をつけ過ぎているのか。
恐らく両方だろうけど。
「安心してね、ここには昴さんもいるし・・・安室さんもいるから」
少し小声で、僅かに工藤新一を感じる声色でそう言われれば、年下の彼に安心させられる情けなさと、この上ない心強さを強く感じた。
「・・・ありがとう。コナンくんもいるしね」
そう話せば、彼は少し困ったような笑顔で返事をして、事件現場へと戻っていった。
子どもらしい好奇心だけが年相応に見える部分だな、と改めて思いながら、その小さな後ろ姿を目で追った。
この様子なら、この事件が解決するのも時間の問題かもしれない。
そう思ったのも束の間、警察の人達から真実を語られたのはそれから十分程経った頃だった。
どうやら波土禄道は自殺だったようで。
ただ、それを不可能犯罪に見せかけたのは、あの女性マネージャーさんだった。
十七年前に、当時波土禄道と付き合っていた彼女は彼の子を妊娠。
デビューしたての波土禄道はスタジオに籠って、連日徹夜の作曲活動をしていた。
それを止めようと駆けつけた彼女は、スタジオの前で倒れてお腹の子を流産。
その事は、最近まで彼女の意向で波土禄道には伏せられていたらしい。