第65章 不行跡
「零と同じで、波土禄道を調べてるんじゃない、かな・・・新曲のタイトルも気にしてたみたいだけど・・・」
「・・・どこでそれを?」
そう、か。
これを話せば必然的にあの家に行ったことも言わなくてはならない。
別に掃除をしに行っただけだし隠すつもりもないが、いざとなれば何となくそれは躊躇ってしまうもので。
ただ、その間作ってしまった少しの沈黙は、彼に真実を教えているようなものだった。
「・・・帰ったら詳しく聞かせてもらおうか」
一段と低くなった声は背中を駆け抜けて。
自然と肩が小さくピクっと震えた。
「とにかく今は俺から離れるな。・・・いいな?」
「わ・・・分かった・・・」
・・・今、零・・・俺って言った・・・?
そういえば、前にも一度・・・。
「それと」
「?」
考える隙を与えられないまま、零は言葉を続けて。
「そのスカート、見覚えが無いように思うが」
「・・・っ」
的確に、痛い質問ばかりついてくる。
この時ばかりは、彼が警察官だということを少しだけ悔やむ。
「・・・ここに来る途中、引っ掛けて破れちゃって・・・。それで・・・沖矢さんが・・・」
「傍に居たのか」
「ち、違・・・っ」
この場合、違うと言えるだろうか。
あの時彼があそこを通りかかったのは、偶然だとは考えにくい。
・・・今更、後をつけられていた可能性に気付くなんて。
「・・・来る途中に通りかかったの・・・路地裏で・・・」
そう返事をすれば、彼の言葉は止まってしまった。
何かを考えているんだろうか。
何か声を掛けた方が良いのだろうか。
それでも、中々思ったことは言葉にも行動にもできなくて。
「・・・ひなたに、赤は似合わない」
「え・・・?」
突然口を開いたと思ったら、今まで言われた事の無い言葉を、怒りの混じった声色で言われた。
「そ、そう・・・だね・・・」
なんだろう、この複雑な気持ちは。
晴れないモヤは、着実に大きく広がっていった。