第65章 不行跡
「契約期間に引退するなら、裁判沙汰にして法外な違約金をふんだくってやるって息巻いてたというのに」
そう社長に詰め寄るように言いながら近付くが、その社長は男性に見覚えが無いようだった。
「何だアンタ、どこから入った!」
「入口からですよ。スタッフの一人に金を握らせて、このスタッフジャンパーを手に入れてね」
・・・なるほど、彼はジャーナリストか。
やり方としてはあまり納得できるものではないけれど、私も似たようなものかと思えば強くは批判できなかった。
園子さんというコネが無ければ、入ることもできないのだから。
「そうそう、美人マネージャーさん?あんたの方の話も、決着したんですかい?」
「は、話って?」
ジャーナリストの男性は、今度はマネージャーの女性にも話を振り掛けて。
「新曲のタイトルになってる『ASACA』・・・実はアレ、波土の新しい女の名前だって噂になってますぜ?」
波土禄道の、女性・・・。
確かに、考えられなくは無い。
けど、そうだとしたら零や沖矢さん達が調べていることとは全く関係無いようにも感じる。
「んで、長年の浮気相手だったアンタがブチ切れて、あんな曲出すなって波土と大喧嘩したとか」
「だれがそんなこと・・・!」
・・・何だかこのマネージャーさんも、訳アリのようだ。
ジャーナリストとしては美味しい話という訳か。
「そこの君達!この人部外者だから、つまみ出して!」
図星だったのか、根も葉もない噂を立てられて怒ったのか、女性マネージャーは近くにいるスタッフにそう指示を出した。
「お、おい!せっかく金出して入ったんだから少しは取材させろよ!」
声を荒らげながら外へと連れ出される男性を目で追いながらも、同情する余地は無くて。
有名人となれば、こういう面倒事も日常茶飯事なのかと感じながら、小さくため息を吐いた。