第65章 不行跡
「・・・ありがとうございました。この代金は、またお持ちしますので」
「お気になさらずとも、プレゼントとして受け取ってください」
同時に彼も車を降りると、車に鍵をかけて。
「色々な理由からそれはできませんので」
冷たく突き放すように言ってみるが、彼の笑顔は崩れなかった。
その笑顔に私のペースは崩れていくばかりだが。
「さて、向かいましょうか」
「できれば離れて歩いて頂けませんか」
片手を差し出してきた彼をスルーし、そう言い放って足早に会場へと向かった。
今、こうして彼と会話しているだけでも、罪悪感で潰れそうだった。
起こさなければ良かったと思う行動は沢山あるけれど、今更そんなこと後悔しても遅いのも分かっている。
沖矢さんが来ると分かった時点でやめておけば良かった。
そう強く思ってしまう気持ちを、零に有力な情報を一つでも持ち帰りたいという思いで、必死に塗り替えようとした。
会場までは、ほんの数百メートルの距離。
そこに着くと、出入口前に立っていたスタッフに事情を説明し、中へ入れてもらって。
「あ、ひなたさん!」
「蘭さん、園子さん。こんにちは」
大きく手を振って呼び掛けてくる彼女達の元へと向かうと、どこからかひょこっと小さな探偵も顔を出した。
「こんにちは、如月さん」
「こんにちは、コナンくん」
彼があの工藤新一だと分かって接すると、この独特な雰囲気の理由に納得が出来た気がして。
上手く小学生を演じる辺りは、母親に似たのだろうなと感じながら挨拶を交わした。
「こんにちは、遅くなりすみません」
「沖矢さん!大丈夫ですよ、まだリハーサル始まってませんから」
程なくして、沖矢さんも会場へと入ってきて。
彼女達との会話の後に、白々しく形だけの挨拶をすれば、彼もそれに従って返してくれた。
察しが良いのだけは助かるが、それ以上に何か企んでいそうなのは否めなかった。